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新英語教育研究会神奈川支部HP

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2018 三浦 孝さん 生徒の願いを叶える英語教育

●講演:「生徒の願いを叶える英語教育」 三浦 孝さん(静岡大学名誉教授)

1. 三浦さん
 講演者から:生徒一人一人の人間としての成長欲求に応えるという教育の究極目標を見据え、「英語が使えるようになりたい」生徒の願いを叶えるための中長期目標を確認し、その実現を可能にする確かなプロセス(授業で用いる活動)を体験を通して学ぶワークショップです。
 紹介:1971年愛知県立大学文学部卒。千葉県・愛知県にて23年間県立高校英語教師。1987年三省堂英語教育賞一席入賞。1994~1997年バーミンガム大学大学院通信制課程に学びM.A.取得。1995年名古屋明徳短期大学、1999年~2013年3月まで静岡大学教育学部英語教育講座教授。同大学名誉教授。バーミンガム大学大学院在日チューター/修士論文指導教員。通訳案内士。
 主な著書:『英語コミュニケーション授業の実際 - 生きた言葉のやりとりを中心にして-』 広島:第一学習社 平成4年4月 256ページ
『だから英語は教育なんだ』 三浦 孝・弘山貞夫・中嶋洋一共著 東京:研究社  平成14年4月 223ページ
『ヒューマンな英語授業がしたい―かかわる、つながるコミュニケーション活動をデザインする』 平成16年3月 (中嶋洋一・池岡慎と共同執筆) 東京:研究社 303頁
『英語授業への人間形成的アプローチ』 研究社 平成26年9月 252ページ
『高校英語授業を知的にしたい--内容理解・表面的会話中心の授業を超えて』平成28年6月(11名の分担執筆) 研究社 pp.2-33

2. 第一部
●「英語教育=木」のモチーフ
 持って生まれた潜在的可能性をフルに発揮して生きる人生の支援
 反逆的態度の生徒にもどんな可能性が潜んでいるかわからない
 生徒を全人的存在として尊ぶために、マズローのうち、4種類の欲求(安全、所属と愛、承認、自己実現)を満たすことを究極目標とする
 “To Live Beyond My Power” by Haruo Tanaka (Amazon Kindle)
 殺人で収監された少年が、英語を独学して人生を取り戻していった自伝
 少年にとって英語は『蜘蛛の糸』だった
 英語を学ぶことにより自らの好戦性をコントロールできるようになっていった
●「生徒の人生を豊かにする」
 生徒のマズローの生理的欲求以外の四大欲求に答えることである
 自己実現を達成(英語が通じるなど)した時は、パッと顔が輝く
 英語による自己実現目標とは、具体的に何ができるようになることか?
 英語アクティビティ参加力・運営力
 英語プレゼン力
 英語交渉力
 英語ディスカッション力
 現代は、Post-truthの時代、真実が何かではなく、自分の信じたい真実を信じる
 対人関係調整力を育てる
 自分の好きな芸能人や人気のある先生などについてinformation gapをレベル3などでやる。
 レベル1,2,3,4をバランスよく活用することが大事。
 三重県の底辺校で行った授業に設定したゴール
 「セヴァン・スズキは、大人たちにこの環境汚染を残さないでくださいと提案しました。あなたは、大人たちに何を提案しますか?」
 はじめにゴールタスクをみせて、それができるようにX時間の授業を行う。
 教材を理解させようとするが、どこまで理解させたら理解したことになるのか。
 ゴールが明確だとプロセスがぶれない。

3. 第二部
●セヴァン・スズキの読み物に基づく模擬レッスンのOral interaction
 各レッスンの前にOral introductionでなくOral interactionにより、先生はプレゼンのモデルを見せる
 注意点:15分以上やると生徒はだれる、15分でやめる
 自作の大きな絵は、Oral interactionにもReproductionにも縮小して定期試験に載せたらwritingにも使える。苦手意識を持つ人もいるが、シンプルなものでじゅうぶん。
 Graphic organizer(表)を利用したPros/Consのまとめ方
 汎用性のあるコミュ活動の型のいろいろ
1)( )穴埋め言い換え作文
2)共感的傾聴の訓練
3)相性テスト
4)”Find someone who--”支持された内容の相手を見つける、などなど
1)の後、すぐに2)傾聴的オウム返しを行ってもよい
A: What kind of people do you like?
B: I like those people who are ( ).
A: Oh, you like people you are ( )!
 言葉を返すためには、しっかり聞くことが必要である。しかも人間関係づくりに意義ある活動である。
●生徒との関わり
 大変な暴力高校にいた時に、教員は「できないのが当たり前」という態度。
 ボス的生徒も、「先生、俺たちはできないからほどほどに」
 しかし「じゃ、適当に楽しくやるか」といえば生徒は傷ついていたはず。
 勉強のできる人の学校に行った教員は、歩みの遅い人に共感できない。
 『タッチ』を知らなかった自分は、歩みの遅い生徒から『タッチ』を教えてもらい世界が広がった。ビリー・ジョエルに先入観があったが、生徒のすすめで聞いてみるといいバラードもある。話してみると生徒には自分の知らない世界があるとわかる。今でもこの人達からどんなことから学べるだろうかという思いで話しかける。
 L2 Selfの形成
 外国語でコミュ活動を行うことは、外国語の世界に生きる新しいSELFの形成を促進する。そればかりか、こうして形成される外国語のSELFつもりSecond Language Selfが母語のSELFと内的に対話し、それによって母語のSELFも成長する。英語を話す時は、outgoingになるしyes/noをはっきり言っている自分に気づく。

4. Q&A
 Q:木のメタファーに「spoon-fedでない」と書いてありますが、具体的にどういうことですか?
A:知識を先生に注入してもらう学び方でなく、自分で掴み取っていく学び方、それがこれからの学びであるという意味です。
 Q:中間試験の内容には個々の教員の別々の教え方が反映されない共通テストと普段の授業との関係性についてお考えをいただきたい。
A:確かに、考え方の違う先生方の間共通テストを作るのは問題です。分担して作ることもありました。英語の楽しさを中心に授業をやれば、時間はかかりますがそれが点数に反映されます。
 Q:Reproductionのやりかたは?
A:Reproductionは元の言語構造にこだわらずやればいいです。先生が与えた表現を使わせようとするのは不自然。その人なりの文体でいい。ひとりひとりの力に応じた文でいいと思います。
• 日本では日本語母語話者の数が1億2千万と多く、英語が使えなくても生きていくことができます。故に、生徒たちの英語に対する欲求は比較的低いかと思われます。どのように生徒の欲求を高められるのでしょうか。
• セバン・スズキの例文がとてもいいと思った。どうしても教師と生徒は年齢・生きてきた社会や感覚が異なると思うので、少しでも授業の中で教師と生徒の間の距離が縮まるだろうと感じた。対人関係の問題においても、教師が歩み寄ることが大切だと学んだ。また、具体的な授業方法である図表は単語を穴埋め形式にすることで、生徒たちは教科書を読むようになるのではないかと思った。
• 三浦先生のお話を伺って、前向きな気持ちになりました。ありがとうございます。そもそも私自身に4つの力が備わっているのか反省し、気持ちを新たに頑張ろうと思いました。子どもたちは私にはない未知の可能性に満ちているので、改めて彼らに誠意をもって接していこうと思います。また明日から生徒に会うことが楽しみです。
• 三浦先生の論文や著書と出会い、「英語授業を通じて生徒の人間関係を育む」という教員人生のGoalを見つけることができました。今日は直接お話を伺うことができ、とても嬉しかったですし、強くinspireされました。10年間勤め、学んだ2校の困難校から進学校へ異動し、戸惑うことも多くありますが、先生の教えを忘れずこれからも実践を重ねていこうと思います。今日は来て良かったです。ありがとうございました。
• 『4つの力』すごく印象的でした。今の私は4つの力をまだ持つことができていないと思いました。生徒と深い関係でお互いに学び合う場を作っていく上で、まずは自分がお手本となれるように、この力を身につけたいと心から思いました。
• 含蓄のあるご講演、大変貴重な機会でありました。「樹」をかみしめ、自分の教師としての土壌にしていきたいと思います。具体的なインストラクション助かります。ご講演のスタイルとして、途中に「復習」が入ったり、分かりやすかったです。新英研ならではのご企画、ありがとうございました。
• 人間教育としての英語教育の価値、自己実現の価値について考えさせられた。
• 先生の一言一言に「まさに私もそう思う」と感じました。先生のご経験に基づく様々な、バラエティー豊かなactivitiesはもちろん、先生の教師としての温かい眼差し、信念が感じられ、先生をめざして更に成長していきたいと思いました。ありがとうございました。
• 高校の特に悪条件下のクラスでの授業において、学力に合ったゴールタスクの必要性、生徒と結びつきのある授業内容の必要性について学べたことは、とても有意義でした。
• 実のあるお話を伺えて本当に良かったと思います。読解指導の際、これから、どういう話をしていくのかのときのoral interactionを使いそしてGraphic organizerを用いて文理解をさせるお話は、とても意味のある有効なものでした。大変勉強になりました。


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